傷痕

SS_エリー

※二人で風呂に入ってほしい。
※ちょっとスケベな雰囲気を目指した感じ。

 「ふう……」
浴槽に身を沈めながら、人木さんが自身の身体を洗っているのを眺める。珍しく二人一緒に入浴する事になったので、身体を洗いますよと提案したが、残念ながら断られてしまった。おまけに、狭いから風呂に入ってろと言われてしまい、私だけが寂しく湯船に浸かっている。
アンドロイドなので、湯に浸かる心地良さというものは分からない。それでも、温かさに身を包まれると悪い気はしなかった。
「邪魔するよ」
「!はい、どうぞ」
人木さんは浴槽に入ると、既に湯船に浸かっていた私に身を預けてくる。水かさが増えた事で、溢れた湯は流れていった。
後ろから人木さんを抱くようにしていると、水面から覗く彼の膝に、百円玉程の大きさの青いあざを見つけた。
「人木さん、膝どうしたんですか!?」
「ああ、どっかでぶつけたのかな」
こちらとしては心配で思わず声をかけてしまったが、当の本人は気にも留めていない様子だ。
「ここだけ青くなっていますよ……。お風呂から上がったら、すぐに冷やしましょう」
「大丈夫だって。触ったりしなけりゃ全然痛くないし」
けろっとしている以上、事実として痛みは無いのだろう。
「何処でぶつけたとか、心当たりは無いんですか?」
「いや、全く」
「でも、ぶつけた当時は流石に痛かったのではないですか?」
「痛かっただろうけど……。そんなん一々覚えてないって」
五月雨に質問を繰り返せど、人木さんは呑気に手で湯を掬うと、顔を洗っている。

アンドロイドの自分にとっては、あり得ない状態だった。僅かでも外傷となるダメージが検知されれば、記録として私のメモリに残り続ける。いつ何時なんどきの出来事であったか、何が原因であったか。詳細に残せる機械とは違う。すぐ側にいるのに、人木さんが遠く感じる。
内出血が治れば、あざもいずれ消えるのだろう。それは、自分が先程付けたキスマークも同じだった。
電気信号の0と1のような極端なものでなく、グラデーションのような人間の変化を、基本的には羨ましく思っている。髪を伸ばしたり、髭を生やしたりするのも、変化の過程を楽しめる。
けれど、今は容赦なく入れ替わる細胞が少し忌々しい。

「人木さん」
「ん?何?」
「もう1回しませんか」
「やだよ。今身体を洗ったばっかなのに」
「身体でしたら、いくらでも洗ってあげますから」
彼のうなじにキスをする。
「人木さんに、私の存在を刻みつけたくなりました」
「いや、さっき散々してたじゃん」
人木さんは渋るが、構わず彼の後孔に触れる。
「あっ、おい」
嗜められるが、本気で拒絶するトーンではなかった。
「したばかりだから、ナカ、柔らかいですね」
今は私を容易く受け入れていても、またすぐに拒むようになるのだろう。かき混ぜるように指を動かせば、人木さんの身体がびくりと跳ねる。
「人木さん……駄目でしょうか」
背後から、彼の背中に頭を擦り付けると同時に指を抜き、脇腹をするするとなぞっていく。
「も〜、わかったよ。あと一回だけね……」
人木さんは身体ごとこちらに向き直ると、触れるだけのキスをした。

「延長コースは高いっすよ。さっきよりも楽しませてね」
「ええ、任せてください」
「……それなら、次は人木さんを抱っこした状態でしてみるのはどうでしょうか」
間髪入れず、頭頂部に衝撃が加えられる。
「絶対に!風呂場では!そんな真似をするな!!」
「いたい!……痛くないですけど」
人木さんが、何故か私の頭にチョップを喰らわせてきた。機体のコンピュータが、活動に何ら問題のないダメージだと即座に演算する。
これも、人木さんからしたら”大した事ない”出来事として、彼の記憶に刻まれる事はないのだろう。こちらには、今の衝撃も含めて全て鮮明に記録されるというのに。それこそ”大した事ない”といつもなら気にしないが、今の自分は受け流すことが出来なかった。
「お風呂場でなかったらいいんですか?」
尋問するように、彼に尋ねる。
「えっ、いや……。風呂場関係なく、落ちたら危ないじゃん……」
「私の耐荷重であれば、人木さん程度余裕で担いでいられます。人間なら疲労を原因として落下事故に繋がる可能性もありますが、私ならその心配はありません」
「うわ何、急に喋るじゃん」
はあ、と人木さんはため息をつく。
「あ〜、分かったよ」
「……いいんですか?」
「先に余計な事を言ったのは俺だしね。本当に、人の言う事を聞きやしないアンドロイドですこと」
そう言うと、何故か人木さんは私の鼻を摘む。呼吸をしない私にとっては、何の支障にもならない。
「……こんな私は、嫌ですか?」
「この後が、ヨかったら答えてやるよ」
答えはおあずけと言わんばかりに、口を塞がれてしまう。私自身も、彼を求める事に集中しようと思考を切り替えた。

行為の後、人木さんの方からああ言ってきたにも関わらず、回答を求めた私に対し「本当にちゃんと聞いてくるのかよ」と理不尽な反応をされたのだった。


※シたくなっちゃうから身体を洗ってもらうのを拒否した癖に、結局流されてもう一回戦するみたいな展開に萌える。
※途中で事後だったんだと気づく作品にも萌える。出来たかは知らん。