※二人は恋人関係。付き合ったばかりだが、この事はスパローのスタッフ達も知っている想定。
「中身は……これで終わりか。全部揃ってるな」
チェックシートに印を記載する。スパローでの物資の確認作業にももうすっかり慣れたものだ。
「人木さん、そっちはどうですか?」
同じ作業を担当していたビジョンが声をかけてくる。
「うん。今終わったとこ」
「こちらもひと段落したので、そろそろお昼にしましょうか」
「いいね。今日のメニューは何だろうなあ」
ビジョンと付き合うようになってから、二人きりで作業をする事が増えたような気がする。気を遣われている……と考えるのは、自意識過剰だろうか。
「レオさん。確認したい事があるのですが、今よろしいでしょうか」
女性の声によって、そんな思考はかき消される。声の主はアンドロイドのスタッフだった。
「はい、何でしょうか」
ビジョンと女性スタッフが話し始める。ビジョンに誘われたところだったため、先に一人で昼食に向かうのは憚られる。そのまま二人の様子を眺める事にした。
(やっぱり、絵になるよなあ)
人間に親しみを持ってもらえるような造形を意識して作られたモデルも多いらしいが、それでも基本的には整った顔立ちのアンドロイドが多い。ビジョンと今話している相手も、例外ではないと感じた。
会話している様子をぼうっと眺めていると、ビジョンと目が合う。すると、彼は相手に会釈をした後、自分の方に近づいて来た。
「人木さん、どうかしましたか?」
「いや別に。ただ見てただけ」
「本当に?私が話している間、ずっとこちらを見ていたでしょう。気づいていましたよ」
ビジョンは何処か機嫌が良さそうだった。こちらが視線を向けていた事で、会話が変に中断した訳ではなさそうで安心する。
「アンドロイド同士、やっぱお似合いだなあって」
「は?」
「いや語弊があるな。美形同士で絵になるなあ、サマになるなあ、みたいな」
「やきもち……では、無さそうですよね。貴方の場合」
ビジョンは何故か、あからさまに大きく溜息を吐く。
「実際問題、美人だなあって思うアンドロイドも多いし、アンドロイドじゃなくても可愛い女の子がやっぱいいな〜とかなったりしないの?」
自己卑下ではなく、本心から疑問に思っている事だった。過去に、ビジョンは告白された事があると言っていた以上、順当にビジョンに対し好意を向ける存在はいたのだ。そしてその人物は、平凡な顔立ちでしかない40手前のおっさんと比べたら、遥かに付き合いたいと思えるような存在だったはずなのだ。
「人木さん……仮にも恋人なのに、そんなこと聞きます?」
ビジョンがむっとした顔で返す。
「私は可愛い女の子アンドロイドじゃなくて、誰よりも人木さんが好きなんです」
「はあ……」
「そういう目で見る人も、人木さんしかいません」
「うーん……」
自分しかいない、ときたか。
前に、好きなタイプを聞いた時も”人木さん”という答えだった気がする。ビジョンからしたら本心から出た回答なのかもしれないが、単純に俺以外に深く見知った相手がいないだけなのではないだろうか。
「お前ってさ、男が好きなの?」
「はあ?」
即座に帰ってきた反応は、”何を言っているんだ”という意味を含んでいた。恋愛対象が男性という訳ではないらしい。
「お前さ、やっぱり相棒や友達への親愛と、恋愛を混同して勘違いしてるって事はない?」
「……」
ビジョンは黙って聞いている。
「その辺、今ならまだ傷が浅いというかさ、勘違いだったとしても、アンドロイドだし仕方ないよね、で終えられるし」
「……あのですね」
きょろきょろと辺りを見渡したかと思うと、いきなり距離を縮めたビジョンに、そのまま唇を塞がれる。
「いくらアンドロイドでも、友達と!こんなことを!したいとは思いません!」
「人木さんの馬鹿、阿呆、ノンデリカシー、もうちょっとよく考えてから発言してください!」
「男は女が好きとか、アンドロイドなので尚更関係ないんです。人間と違って、私たちにとっては性別上の問題は皆無ですし。性的嗜好だって本来は必要なく、意識的には希薄でもあります」
「でも、それを全部変えたのは人木さんです」
「アンドロイドが言うのも変かもしれませんが、理屈とかそういうのは関係なくあなたを好きになったんです!」
「……はい」
「ビジョンさんあの、本当に、その……」
「すみませんでした……」
矢継ぎ早に捲し立てられ、短い謝罪を絞り出すのが精一杯だった。
「ほら、早く行きますよ」
ビジョンに促され、彼の後に続こうとする。けれど何処か上の空のまま、自身の唇を手でなぞる。
「あのさ」
「まだ何か?」
ビジョンの反応には棘があったが、構わず続ける。
「俺は元々女の人が好きだし、女性に対して綺麗だなあ、可愛いなあって思っちゃったりする事もやっぱりあるけどさ」
「お前にキスされるのは嫌じゃないなって」
「お前の事、ちゃんと好きっぽくてなんか安心した」
「……好きでいてくれなきゃ、困りますよ」
そう言うと、ビジョンは俺の左手を握る。彼は俺の顔を見ようとはしなかったが、先程よりも口調は柔らかくなっていたように感じた。
「ほら、早くご飯食べにいきましょ!」
ビジョンが俺を急かす。手を握ったままで、スタッフ達も大勢いる食堂に向かおうとしている事に、彼は気づいていないのだろうか。
ちらりと周りを見渡し、俺の方も人がいないのを確認すると、ビジョンに体重を預けるように身体を近づけ、握っていた手の指を絡めていった。所謂、”恋人繋ぎ”というやつだ。
「あ、あの、人木さん」
「んー?」
「こ、こういう事は……家に帰ってから、した方がいいのでは……?」
「嬉しいですが、スパローだと、その、人目もありますよ……?」
「……お前の方から、手を握ってきたのに?」
「!」
ビジョンは、そうだった、と露骨に分かる表情をする。彼の反応に満足したので、笑いながら手を解こうとしたが外れない。向こうが、力強く繋ぎ止めていた。
「……今夜、この続きをしたいです」
「誰の目も気にせずに、二人きりで」
そう言うと、ビジョンは握っていた手を口元に近づけ、中指にキスをした。
「お前……、スゴいな本当……」
「?」
気障ったらしい行為を平気で行う事に腹が立つやら、離れていく手を残念に思うような、先の事への期待もあるような。
渦巻く感情の全てに、愛おしさが含まれている事は、間違いなかった。
※実際、付き合ったばかりなので帰宅したらイチャイチャするだけなんでしょうね。
