※二人は恋人関係
画面が暗転する。
次に映像が切り替わると、演者達の名前が次々に映し出されていく。物語は終わり、エンドロールとなったようだ。
今日は休日だが特に出掛ける事もせず、ビジョンと二人で映画を見ていた。切ない感じの終わり方だったが、まあ良い映画だったんじゃないだろうか。
我ながら浅い感想を抱きつつ、ソファの隣に座るビジョンを横目に見ると、彼は手で目元を拭くような動作をしている。一見して映画に感動して泣いているのかと思ったが、アンドロイドであるビジョンに涙を流す機能は無いはずだ。疑問に思い彼の目元に注目すると、潤んでいることもなく、いつも通りである。
こちらの視線に気がついたのか、ビジョンが口を開く。
「感動したらつい泣いてしまいました。あっ、涙は出ないですけど……」
やはり、感動はしても涙は出ないようだ。
「良い映画だったよね。泣くのもわかるよ」
そう返すとえへへ、と彼は何故か照れくさそうにしている。
「人木さんは泣いてないんですね」
「まあ、面白かったけどそこまでは刺さらなかったかも」
「あまり人木さんが泣くところを見た覚えがありませんが、泣く事はないんですか?」
改めて目元を拭いながら、ビジョンが尋ねる。
「そりゃ、いくらでもあるよ」
これは事実で間違いないはずだ。答えた後で、最後に泣いたのはいつだったかと思い返す。
…………。
「実家で飼ってた犬が亡くなった時は、泣いたと思うよ……?」
「それは、とても悲しいですね……」
ビジョンの表情が曇る。
「いやでも、大学生の頃の話」
「10年以上前じゃないですか」
暗い顔はどこへやら、鋭いツッコミをされてしまった。
しかし記憶を辿ってみても、これより後に泣いた記憶が無い。同棲までしていた彼女の浮気が発覚したりと、ショッキングな出来事は色々思い付く。
それこそ、自分は恭雅と心ちゃんが亡くなった時でさえ泣かなかったのだ。飼い犬の死には泣いておいてどういう事なのか。普通、歳とともに涙脆くなるものなんじゃないか。
恭雅が亡くなった時、ビジョンの方はショックからか、俺を恭雅と見間違えていた。当時は殴った事で彼を正気に戻せたと考えていたが、むしろ死に対する正常な反応かもしれない。仲が良かったにも関わらず、涙の一つも流さない俺は、かなりの薄情者なんじゃないだろうか。
「俺って、全然泣いてない……?」
「そうですね……」
「人木さんの泣いたところっていうと、エッチで私が上の時しか見たことないですね……」
ああそうだ、と思い出したようにビジョンが言う。
「捏造するな!泣いてねえよ!」
反射的にそう返すが、最中に口を滑らせまくっている自覚はあるので、他にも色々垂れ流している可能性はある。ただし、今この場ではそういう答えを求めていたのではない。
俺はがくりとソファから転げ落ちそうになる。自分の中では割とシリアスな話題のつもりだったのだが。
「……恋人として、貴方の表情を余す事なく見せてほしいとは思っていますが、私は笑っている人木さんの顔が一番好きですよ」
なんて事のないようにさらりと言うと、ビジョンはにこりと笑った。
「はあ……。そりゃ、どうも」
本当によくもここまで、すらすらと甘い言葉を吐けるものだ。こいつは臭い台詞を恥ずかしげもなく言える機能でも搭載してるんだろうか。俺相手に使うのであれば、なんとも無駄な機能である。
ただ、ビジョンの歯の浮くような、むしろ歯にへばりつくような甘い言葉で、さっきまで胸の内にあったわだかまりは消えているような気がした。
テレビの画面に視線を戻すと、既に次の映画の視聴を促す表示になっており、エンドロールとともに映画は終了していた。
涙の出ない目元を拭うアンドロイドの姿を思い出す。俺が死んだ時にも同じようにしてくれないだろうかと、そんな事をふと思った。
