「おやすみなさい、人木さん」
「おやすみ」
隣で横になっているビジョンが目を閉じる。俺の方はというと寝る素振りもせずにスマホを手に取ると、流れてくる情報を特に目的もなく眺めただ時間を潰した。
(そろそろいいかな)
ベッドでスリープモードになっているビジョンに気を遣う事もなくがばりと起き上がる。彼が目覚めないか確認ついでに、音は多少立てた方が良い。
「心さん、今日は寝室で寝てね」
リビングのソファですやすや寝ていた心さんを抱きかかえると、ビジョンの足元にそっと移す。寝ぼけ眼の彼女は場所を移動させられた事すらはっきりと認識出来ていない様子のまま再び眠りにつき始める。
クローゼットを開き目的のものを持ち出すと、アンドロイドと愛猫が眠る寝室をそっと後にしたのだった。
「さてと」
ぐにぐにと柔らかい、男性器を模したシリコンとローションを手に取る。目的は自分一人で使うためだ。
ビジョンという恋人がいるのにとツッコまれるのは重々承知しているが、実際問題として”抱いてほしい”と頼むのは俺にとってハードルが高すぎた。小綺麗で見目も良いアンドロイドならいざ知らず、自分と同年代の人間の男を抱けるかと問われたら答えはノーだ。無理。
自分に出来ない事を頼むなんて、相手に貸しでも無ければ図々しいにも程があると思う。
その上普段は自分が抱く割合の方が多いため、”今夜しないか”といつものように誘えば俺が抱きたいのだろうと向こうは考える。何回かは挑戦してみたが、もう誘うのは諦めた。無理。
ナカを綺麗にするためにトイレを往復するのも、ビジョンがいると居た堪れない気持ちにもなるが当の本人は現在すやすやとスリープモードになっている。誘う問題ともう一つ、準備に時間がかかるのもかなりネックだった。やっとこさ洗浄が終わったと思えば、今度は突っ込めるように穴を解す必要があるのだ。
良い雰囲気に持ち込んで今からしようかとなったと仮定する。人間側が抱えるクソ面倒臭い工程を全てすっ飛ばせるアンドロイドが目の前にいる中で”滅茶苦茶時間も手間もかかるけど、今日は俺を抱いてほしいなあ!”なんて言える訳がない。無理。
俺から夜を誘う場合自分が抱く役割になるのは固定で、挿れられたくなった時には自分一人で済ませば良い。これが俺の出した結論だった。
***
「はあ……」
ソファに力無く項垂れる。
クソ面倒臭い工程をやっと終えると、ローションまみれになった指を自身の後孔から引き抜いた。レスにもなっていないのに一人でする虚しさはあるが、この面倒臭さに他人を付き合わせるよりマシだろと己を奮い立たせると気の迷いで買ったはずのディルドを体内に埋めていく。果たしてこれを使う事があるのかと思っていた時がもはや懐かしい。
「ん……」
目を閉じてビジョンとする時の事を思い出す。身体をなぞる手の感触や人木さんと呼ぶ優しく甘い声を脳内で再生すると、ただ自分でするだけよりも中心が熱を持つような気がした。
(きもちい〜……)
ずぽずぽと抜き差しする。
ビジョンと付き合うまでは尻の穴を排泄以外で使うなど夢にも思わなかったが、今では後ろの刺激でもある程度快感を拾えるようになってしまった。
(あ〜〜。このままイこ……)
ナカを往復する動きの手は止めずに、空いている手で勃ち上がっている自身を握ると擦り始める。
「人木さん」
「はっ!!!!!!!!!!?」
ビジョンがリビングのドアの側に立っていた。
「えっ、ビジョン、なんで、どうして!?」
「心さんが私の体に乗ってきたんです。重さを感知した通知が来て、スリープモードを解除してみたら隣に貴方がいなかったので」
「あ〜…………」
心さんを寝室に移動させたのが仇になったようだ。いや、それよりも今の自分は丸出しな上に刺さっている。隠そうとしても全く隠せていない。
「さあ今度は人木さんが説明してください。なんでこんな夜中に一人でしてるんですか……」
ビジョンの顔には俺に対する明らかな呆れが浮かんでいた。
「え〜〜……」
先程丁寧に思い返した、一人でするに至った理由が頭の中でぐるぐると廻る。
「ひ、一人でしたい時もあるから……?」
「なんで疑問系なんですか。前ならともかく、後ろでしたいのなら私に言えばいいのに」
言えるのならば言っている。心の中でそう返す。
「人木さんを抱く時は私から誘うばかりで人木さんからは全然言ってこないから、後ろを使うのはやっぱり嫌なのかなともこっちは思ってたんですけど」
「……俺からは誘えないって」
「え?」
「お前に抱いてほしいって思ってもこっちはすぐには出来ないし」
「トイレで捻り出した後に尻穴弄るのも情けなくて仕方ないし、これに付き合わせるのがほんと申し訳ないというか、そんな価値がない」
「お前に負担かけてないんだから一人でしようが別にどうだっていいじゃん……」
掘られたくてもだもだしているおっさんの心中など痛々しすぎて話す気など無かったので、半ばやけくそだった。
「……もういいだろ、早く寝ろよ」
「人木さんが一緒に来るならそうします」
「それは、」
ようやく準備を済ませたのに不完全燃焼で終わるのはごめんだ。
「少ししたらちゃんと戻るって。正直に言うと、ここまでマジで準備しか出来てないから一回くらい抜きたい」
「なら、手伝いますよ」
流れるようにソファに近づいてきたビジョンに押し倒されたかと思うと、そのまま両手を押さえ込まれてしまう。
「動けないでしょう」
身を捩るが、両腕が拘束から抜け出せる気は全くしない。
「最後まで一人で完結しようとして、なんで私を使おうとしないんですか」
「いや使うって言い方……あッ!♡、ん……っ」
自身に埋めていたディルドをずるりと引っこ抜かれ、思わず声が漏れてしまう。
「んンっ……、ちょっ、指……!」
「このまま入れて問題なさそうですね」
入れ替わりでビジョンの指が侵入してきたと思うと、気遣う様子も無くぐいぐいと内側から拡げられる。
いつもと異なり、過剰なほど丁寧に慣らす素振りさえ無い様子からもビジョンはおそらく怒っている。しかし抱いてくれるんだと呑気に喜ぶ自分の存在を否定出来ない。
「入れますよ」
「あッ、硬ぁ……っ♡」
シリコンにはない熱くて硬いビジョンのモノが往復する度ナカが擦れて気持ち良い。一人でするのとは全然違う。
「何呑気に喜んでるんですかっ」
「ンっ、だって、ビジョン、してくれるんだなって」
ビジョンは返事をしなかった。律動で揺れるこちらの陰茎をむんずと捕まえると、躊躇無い速さで上下に扱いてくる。
「えッ!♡まって!!」
「……」
止まる様子の無い手の動きが答えだった。
「〜〜ッ!!」
急激に高められた快感から彼の手の中に白濁を素直に吐き出してしまう。
ナカに入れられるまでにあれだけ時間をかけたのに、ものの数分で達してしまったのだった。
(おまけに、ほぼ前でイかされた……)
「はぁ……っ、はぁ……」
「はぁ〜…………」
息を整えていくうちに最終的にため息が漏れた。一度出すとどうしても頭が冷静になってしまう。一人せっせと準備してまで自分を慰めているところを他人に見られて、思春期の男子か俺は。もう今日はいいや。寝よう。
「うわっ」
思考を切り替えていたところに突如、覆い被さるようにしてビジョンに抱きしめられる。
「……ビジョンさん?」
「人木さんに誘われた時、私の方は断ったりしないのに」
「慣らすのだって気にならないですし、それこそ綺麗にするのを手伝ってもいいのに。なんで私を頼らないで一人で済ませようなんて考えちゃうんですか……」
顔を上げたビジョンと目が合う。ビジョンは悲しそうに眉を寄せ、他にも何か言いたげな口をきゅっと引き結んでいる。
「……ビジョンさん、拗ねてる?」
「貴方のせいです」
そう言うとビジョンは再び俺の胸元に顔を埋めた。
「ほんと、可愛いね〜お前」
俺と違ってという言葉は飲み込む。今は卑下するよりも素直に愛おしいアンドロイドを抱きしめ返す事にした。そのままわしゃわしゃと頭を撫でると、もっと褒めてくれてもいいんですよと調子に乗った答えと共にこちらを抱きしめる腕に力が込められる。
「今回はごめん。次は抱いてほしくなったらお前に言うようにするよ」
「人木さん、何を言ってるんですか」
「え」
機嫌を直したからなのかそれとも何かを企んでいるのか、ビジョンはにこにこと笑みを浮かべながら再び前後に腰を動かし始める。
「ちょっ、なんで動くの。勃つって」
「人木さんこそ何終わった〜みたいな雰囲気出してるんですか。私の方はまだ出してないです」
何か言い返そうにも唇を塞がれると口内をビジョンの舌が這い回る。その間にもピストンの動きは止まらずに、むしろ奥まで熱い芯が打ち付けられる。
「ンゥ……っ♡うっ、うぅッ♡」
抱かれていると物理的に気持ち良いのもあるが、ビジョンは本当に自分なんかを抱ける程好きなんだという多幸感が快感と共に押し上げられるこの感覚がたまらない。
「人木さん、そろそろ……っ」
体内に生温かい感覚が広がったかと思うと、腰を速く打ち続けていたビジョンの動きが緩慢になる。
「人木さん、人木さん……♡」
間髪入れずにビジョンがキスの雨を降らせてくるが、俺にはそれよりも注意を引くことがあった。
「ビジョンさん。あの、もっかい触ってくんない?勃った……」
再び上を向いてしまった自身をビジョンに押し付ける。手で扱かれたばかりなのもあり、ビジョンが出すまでにもう一度達する事は出来ていなかった。
「気づいてますよ。次はこっちでイキましょうね」
そう言ったビジョンに尻をするすると撫でられる。
「…………っ」
中に入ったままのビジョンの熱が再び大きくなったのを感じる。アンドロイドのこの直ぐに臨戦体制に戻れるところは正直羨ましい。
「人木さんがせっかく準備してくれたんですから、私のものが空になるまで付き合ってあげますね」
それって終わるのはいつになるんです?と軽口を叩きながらビジョンの背中に腕を絡めたのだった。
描きたかったもの:人木の心情と拗ねるビジョン君。
