「はあ……」
頬杖をついて、ビジョンはあからさまにため息を吐く。珍しく遅く帰ってきたビジョンは、かなり不機嫌な様子だった。ここまで態度を露わにするほど不機嫌な様子はなかなか見ない。
「どうかしたの?」
「別に、なんでもないです」
自分の問いかけにもそっけなく返し、またため息をつく。普段は人懐っこさを感じさせる柔和な顔立ちだが、眉間に眉が寄り険しい表情になっている。
ご機嫌斜めな恋人には悪いが、正直けっこうグッとくる。
普段とのギャップも相まってか、冷たそうな目つきが美形らしく様になっている。
「さっきから、ジロジロこっち見てません?」
まさに氷のような視線がこちらに容赦なく突き刺さってくる。つい背筋がゾクリとしてしまい、己の中の被虐心が刺激される。
「いや〜、なんでもないですよー……」
ビジョンが目を逸らした隙にまたちらちらとビジョンを伺う。なんとなく、手を出したい気分になり彼の手に自分の手を重ねてみる。
「あの……今はそんな気分ではないのですが」
ビジョンに軽く手を跳ね除けられ、彼は憂鬱そうに虚空を見る。やはりまだ怒りが収まらないのか、足先で何度も地面を小刻みに叩きつつ前髪を握るようにかき分けている。
うーん、やっぱり眺めが良いな。
本人には悪いが、怒りで鋭い顔つきになったビジョンはカッコいいなと呑気に考えてしまう。
イライラしてるのはわかっていても、この状態でちょっかいをかけてみたらどうなるのだろうという好奇心が勝つ。ちょいちょいとビジョンの肩あたりを指先でつついてみることにした。
「なんです?さっきから」
「いやぁ……ビジョンさんがイライラしてるの珍しいなぁ〜と思って」
ビジョンに怪訝な顔を向けられながらも、自分はつつくのをやめない。彼は大きくため息を吐くと、さらに私をイラつかせたいんですか?と言ってきた。
「まあまあ、お鎮めなさって……わっ!」
ビジョンに押し倒され、視界が暗くなる。ビジョンが目を細めて自分を睨みつけるように覗き込んでいた。
「人木さんがこのイライラを鎮めてくれます?」
ぎらつくような視線が容赦なく向けられる。まるで狼に食い破られる前のような剣呑さが肌を泡立たせ、なぜかごくりと唾を飲んだ。同時に用意した罠にまんまと獲物がかかったときのような、高揚感も覚える。
「それなら、身も心もスッキリしちゃいましょ」
身を差し出すのを示すように両手を広げる。食われるのはこちらだが、思ってもいない美味しい展開に思わずほくそ笑む。
「何を笑っているんですか」
ビジョンが言いながら首元に顔を近づけキスを落としてきた。まずは軽くリップ音が鳴る程度のキスから、皮膚の表面に熱を感じるほど吸いつかれる。
「んっ……変なところに痕を残さないでもらえると……」
「さあ、どうしましょうか」
ビジョンに意地悪そうに耳元で囁かれ、軽く息を吹き込こまれるとびくりと体が反応してしまった。気を良くしたのかビジョンがクスクスと笑う。
「やっぱり、弱いですね。ここ」
「あっ……うぁっ!♡ッぅ……〜ッ♡」
耳たぶを軽く喰まれ、舌が耳の内側をなぞる。情けない声が出るのを抑えられず、情欲を掻き立てられ、じくじくと下半身の欲望が育っていく。
「あっ♡あっ……!っ……!うぅっ……そこ、ばっかり……っ、や、めろっ……♡」
「とても気持ちよさそうですけどね?」
ビジョンはいつもに増して意地悪に責め立て、下半身の膨らみを指でなぞる。
「はぁぁっ……ッ♡あっ…、うっ♡」
直接的な刺激に身を捩り、湧き上がる欲望に腰が浮く。
「人木さん、準備してこれますね?もちろん、一人で抜いたらダメですよ」
もうひと押しと言わんばかりに、再度持ち上がった股間を撫でられ、情けない声が出る。
「寝室で、先に待ってます。早く準備してきてくださいね。」
ギラついた視線を隠さず微笑むと、ビジョンは自分を残してさっさと寝室へと行ってしまった。
「この状態で、準備しろってのかよ……」
とはいえ、ビジョンから激しく求められる機会なんてなかなかない。期待でさらに熱が体に集まり、さっさと浴室に向かった。
***
「早かったですね……うわっ!」
ベッドで呑気に座っていたビジョンを早々に押し倒し、そのまま唇を奪う。熱く沸る体を押し付けながら、口内を獣のように貪り食い、舌を絡めて快感を追う。
「……っはぁ、そんなにシたかったですか?」
こっちは息が絶え絶えになるくらい深い口付けをしたのに、まったく呼吸の乱れないアンドロイドが口角を上げる。
「でも、私の方が我慢してたんですよ?」
ビジョンが俺の耳に息を吹きかけるように囁き、体の力が抜けそうになる。その隙を狙って、肩を掴まれグルンと視界が逆転したと思うと、自分がビジョンに組み敷かれる体勢になってしまった。
「くっそ……」
「こうやって人木さんを組み敷くのは、何度やってもたまらないです」
「……もう、降参だからさ。好きにして」
元々はこっちから煽ったのを思い出し、抵抗できない姿勢ではもうどうしようもない。こちらも、欲を持て余しているのだ。
「今日あんまり優しくできる気がしないですけど、良いですね」
「どーぞ」
自らまな板の上の鯛になり、目の前のアンドロイドの顔を見上げる。切なそうに眉間を寄せる表情から、かなり我慢をしていたのかもなとぼんやりと考えていると肌着を剥かれ、ビジョンが体中にキスの雨を降らせ始めた。
「んぅ……はぁっ……」
蛇のようにビジョンの掌が素肌の上を滑り、上擦った声が出てしまう。余裕がない割には随分と丁寧な手つきだと、呑気に観察していたーーが、いきなり肩口に痛みが走った。
「いっ……」
「すみません、痕がついてしまいました」
ぺろぺろと犬のように痕を舐められ、ジクジクとする痛みとくすぐったさを感じ背筋が強張る。
「っ……♡ッおい、噛むなってっ……♡」
甘噛みと舌での愛撫を繰り返され、快感と痛覚の境界が曖昧になる。ビジョンはそのまま首筋に顔を埋めたまま、後ろの秘孔へと指を伸ばしてきた。ビジョンの節張った指がするりと中に侵入し、くちゅくちゅと音を立てて内壁を掻き回し始める。
「んぅっ……はぁっ♡あっ……ああっ♡」
いつもより早急な解し方から、ビジョンもかなり余裕がないのだと伝わってくる。乱暴ともいえる指の動きからでも、快楽を拾ってしまう体に恨めしく思うべきか、悦ぶべきか。そんな思索も、全部どろどろと熱に溶かされてしまう。
「あぁっ……あっ、ビジョン、♡」
抱き起こされ、深い口付けをされるとそのままビジョンの膝の上に乗せられた。いつの間にか、張り詰めたビジョンのモノが後孔に当てられ、ゆるゆると擦り付けられる。
「人木さんから、挿れてください」
獲物を前にした獣のように獰猛な息遣いをするのに、懇願するかのような声音で求められる。ごくりと、唾を飲んだのは自分がこの先を望んでいるからなのか。
「んぅっ……♡ビジョン、の……」
後ろに当てがわれた怒張の表面を撫でて、ゆっくりと己の中に導く。先端が狭い入り口を割り開こうとしてるのが分かり無意識に力を込めて苦しくなってしまう。
「はぁっ……あっ……ぅ♡はぁっ、うぅっ……♡」
ビジョンのモノを挿れようとするが、上手くいかずもどかしい感覚にゆるゆると腰を動かす。先端が中に侵入しているが一番太いところを挿れるのに手間取っていた。
「ビジョンっ…んっ♡できな、い…からっ、はぁっ♡挿れて…っ♡」
強請るようにビジョンの首筋に縋り付くが、目の前のアンドロイドは呆れたようにため息をつく。
「今回、人木さんから煽ってきたんですよ?」
「うぅっ……でも、はぁっ、自分じゃ、挿れれないって……」
その瞬間パシンと乾いた音が響き、臀部に鈍痛が走る。ヒリヒリとした感覚が治らないうちに再度尻を叩かれ、声が出てしまう。
「うぁっ…!?やっ、なぁっ♡な、にっ……!♡あっ!?♡」
連続して尻を叩かれ、思わず力が抜けると自重でビジョンのものを半分ほど飲み込んでしまった。
「うっ……あぁ〜っ……♡はぁっ、はっ…!♡」
「ほら、人木さん頑張って」
ビジョンは自分から動こうとせず、先ほど叩いたあたり今度は撫で始める。調子に乗るなと返せるほどの理性はなく、ただ痛みによって与えられた快感に惑わされ、彼の指示に従ってしまった。
「あっ……はぁっ……!あーっ……♡」
早く欲を解放したい気持ちが先行し、ビジョンのモノを中に招く。ぴったりと収まりきった中で、熱い彼自身がどくどくと脈を打つのを感じた。
「ビジョンっ……できた、できたっ……♡」
「人木さん、よく出来ましたね」
「だから、早くっ……♡」
ビジョンは俺の頭を撫でながら微笑む。そんなものよりもっと欲しいものがあった。
腰を掴まれ、中を蹂躙するようにビジョンが上下に揺さぶり始める。最初からラストスパート並みに打ちつけてガンガンと攻められ、たまらないほどの快楽が濁流の如く押し寄せた。
「うあっ♡あっ、あっ♡ひっ、激しっ♡やっ、とまっ♡とまって…っ♡」
「今更無理、ッですよ」
奥の方を突かれ、一際声を上げてしまう。もはや声量を抑えようとすらできず、ただただ荒波のような揺さぶりを受け続け、快楽に溺れることしかできない。
「優しくできないって、言いましたよ」
「はぁッ♡あッ、うぅっ、ビジョンッ……♡」
ビジョンが苦悶の表情を浮かべながら、深く口付けをしてくる。お互い限界を感じながら交じり合い、貪り合うことしか頭になかった。
「あっ♡ビジョンッ……もうッ、イク…ッ♡」
「んっ……人木さん、人木さん……」
早まる抽挿に、耐えきれず込み上げてくる欲望を解放した。飛び散った白い精液がビジョンの腹を濡らし、やがてビジョンも自分の中に精を解き放った。熱いものが体の内側を侵食していき、その余韻につられそうになる。
「ビジョン……」
果てた後は倦怠感を感じながらも無意識にビジョンを抱き締めてしまう。これで終わりかと思い込んでいたら、視界がぐるりと回り天井を仰ぐ姿勢になった。
「人木さん、まだ付き合ってくれますよね?」
誘ったのはあなたなんですから。
抗議をする間もなく唇を塞がれる。ギラギラとした瞳が、飢えた獣のように自分を捉えて話さない。目の前のアンドロイドの恋人は、自分の命令を聞きそうになかった。
