※二人は恋人関係
足早に寝室へ急ぐ。
「さみ〜!」
室内が寒いのは事実だが、体感よりも大袈裟に騒いでみせる。それを聞かせる相手は、一足先にベッドで待っている。
「人木さん、あったかくなってますよ」
ビジョンが布団の中へと招く。俺は寒い寒いと繰り返しながら布団へ潜り込むと、暖を求めてビジョンに張り付く。年甲斐も無く彼の胸元に顔を埋めると、背中に優しく手が回された。柔らかさも鼓動もない胸の暖かさが、今は愛しい。
ビジョンはアンドロイドであるせいか、人間を甘やかすのが好きなようだった。純粋さ故になのか、恥ずかしいという感情が希薄なのか、素直で積極的に招いてくるさまは羨ましくもあり、鬱陶しくもあり、有り難かった。
抱きしめるだけでは物足りなくなり、悪戯という建前を用意し、冷たい足を相手の素足に押し付ける。やめてと注意される事はない。そもそも、同じ布団で一緒に寝たいと誘われた翌朝に、お前の寝相のせいで寝られなかったと恨み言を言われる事もない。少し自分に都合が良すぎはしないかと、そんな自惚れた感想を抱く。
ふとした折に、目の前のアンドロイドが惜しげもなく寄越してくる、どろりとした甘さに思い切り溺れてしまいたいと思う事がある。恥も外聞も捨てて、この熱を強請ってみてもいいのではないか。布団の中で、自分が既にみっともない姿になっているのは明らかだが、向こうが最初に誘ってきたという事実が、安いプライドを守るためには必要だった。
「今日の人木さんは、いつもより甘えたですね」
「……いやいや、今日は特に冷え込みますって」
ビジョンに言われ、冗談めかして返した言葉は強張っていた。
しまった。引っ付きすぎた。
温もりを言い訳にしているとはいえ、隙間の無い触れ合いを求めるのは、自分でも柄にもないことであると理解している。咄嗟に彼から離れようとすると、自分を抱きしめている腕に力が込められた。
「それなら、今日は抱き合ったまま眠りませんか?」
アンドロイドの無邪気な提案に、緊張はじわりと熱で溶けていく。
「あの、俺の寝相の悪さを承知の上で仰っているんでしょうか」
断られる理由にならない事を、俺は知っている。
「それはもう、よく知っていますよ」
人工の熱を、人肌と勘違いしそうになるには十分だった。
