休日のリビング。デート後の時間は人木さんと蜜月を過ごせる時間の一つだ。デート中は、周りの目があり公然といちゃつくことはできないが、人木さんのアパートであれば完全なプライベート空間。
私は恋人らしく肩を預け、そのまま体を密着させるように腰を引き寄せるが、人木さんの放った一言はこうだった。
「あつい」
そう言って人木さんは私を軽く押し除けた。
「え……」
「まだエアコンつけたばっかりだし、くっ付きたくない」
冷気を求めシャツの襟を掴んでパタパタと風を取り入れる人木さん。
パートナーとの甘い時間を楽しめると期待していたのですが。
「ちょっとくらい良いじゃないですか」
「やだ〜、アンドロイドは平気でも人間は暑いの」
全く取り入ってくれる様子はなく、人木さんとの距離はむしろ離れていく。
「じゃあ、もういいです」
ムキになってつい顔を背けてしまった。人木さんと付き合って気がついたが、好きな人に甘える時は無難に諦められるほど、自分は大人ではないらしい。
横顔を盗み見ても、彼はエアコンの風を浴びるように半口を開けて天井を仰いでいる。私は苛立った気持ちのまま台所に向かった。
ポップソングはよく恋人たちの夏を祝福するが、私たちにはその息吹はかからないのだろうか。
ため息をつきながら夕飯の準備に集中することにするのだった。
※※※
翌朝。共に同じ寝床に入るも、昨夜私は人木さんに「暑いから」と距離を取られてそのままスリープしたはずだった。
しかし、今、人木さんは私にがっしりと抱きついている。腕と両足を私の体に絡め、まるで樹木に捕まるコアラのような姿勢で。
「えっ」
起動して目の前に広がった視覚情報に戸惑い、思わず声を上げてしまった。
あんなに昨日は「暑い」と主張してきたくせに。たとえ寝相だとはいえ皮肉なことである。
とはいえ、人木さんは私に抱きついたまま、離れる気配がなさそうなので私もそのまま背中に腕を回した。
「……ふふ」
後頭部を撫でて、乱れた髪の毛を指先にひっかけては離す。癖のついた前髪が額に汗で張り付いていて、顎下には小さな針山のようにうっすらと髭が伸びている。
至近距離で人木さんの寝顔をじっくりと思う存分眺めては、チクチクした生えたての髭を触ったりして遊ぶ。
「えへへ…」
再び、ぎゅっと人木さんを抱きしめる。まだ人木さんに目覚める気配はない。夢心地の恋人を好き放題できるのもたまには悪くはなかった。
