「ビジョンさんの顔、触り心地好きなんだよね。つるつるすぎてムカつくとこもあるけど」
「はあ」
両頬を包み込み、顔の輪郭を大雑把になぞりながら人木さんは私の擬似表皮(スキン)を楽しんでいる。
リビングの中心にあるソファに寄りかかったまま、私は彼のなすがままだ。
「耳も軟骨みたいな感触がある」
「なるべく、人に近く感じるように設計されていますから」
「へー」
人木さんは空返事をしながら、そのまま人工毛髪をいじり始める。
「アンドロイドってハゲる心配もないだろうし、うらやましー」
「強く引っ張られると抜けたり、劣化で抜け落ちたりとかもありますけど…人間と違って、たびたび手入れも必要ですし…」
今度はベタベタと首や肩を触り始めた。軽く手で押したりなぞるように撫でる。
人木さんとの物理的な距離が近づいたからか、吐息の振動を感知し、不思議と意識し始めてしまう。
下心があるのか、興味本位なだけなのか。後者だとしたら期待させられた分、少し腹が立つ。仮にも恋人なので触られる側の気持ちも少しは考えて欲しい。
「あの……」
「ん?」
「服、脱ぎましょうか」
「じゃ、お願い」
上半身に纏う衣服を取り払い、所在がなくなって相手の顔から目を逸らした。
恋人同士の行為をするときは、お互い余裕がなく相手の衣服を奪うように脱ぐため、自分から人木さんの前で脱ぐのは珍しかった。
「明るいところでじっくり見るのは初めてかも」
余計な一言だ。そう言うのを喉から出る寸前で堪える。
胸筋の間にそっと指で触れ弾性を確認する人木さんは、へーとかふーんとか言いながら遠慮なく、じっくり身体を観察した。
「よくできてるなぁ〜」
透明な服部のパーツをこつこつ叩き、子供のように覗き込む。腹と胸の間の感触の違いを確かめるように何度も指を滑らせていた。
「人木さん」
耐えられなくなり、彼の手を掴んで胸の中心へと導く。
「もっと触ってほしいって言ったらどうします」
「えっ」
「誘っている、ということです」
ちゃんとはっきり伝えなければ、この先に進めないと今までの経験から理解していた。言葉にするには、自分の羞恥に勝つための勇気が伴う。
「ビジョンさん、その気になっちゃったんだ」
「そうですよ。あなたのせいで」
「あはは」
悪びれもなく、人木さんはにんまりと口角を上げた。
「良いよ、しよっか」
ゆっくりと視界は仰向けになり、人木さんの顔だけが目の前にある。
無邪気に微笑むその顔に、不本意な愛しさを抱いてしまうのはきっと、私の弱みなのだ。
【海ビ】触れる
SS_蓮根