寝てる間に

SS_エリー

※一応恋人関係。全て人木目線。

「ただいまー」
仕事を終え、自宅に帰る。いつもならビジョンが出迎えてくれるが、彼が現れる様子は無い。テレビも点いていないのか、家の中は静かだ。
「どっか出かけたのか……?」
独り言を漏らすが、リビングの電気は点いている。
「うわっ」
リュックをソファに下ろそうとしたところで、人が寝ている事に気がつく。ビジョンだ。
大きな声を上げたにも関わらず、起きる気配は無い。スリープモードになっているようだ。
夕飯は……?と疑問に思って台所を見れば、コンロの上に蓋をされた鍋が置かれている。中身を見れば、カレーが鍋いっぱいに作られていた。
「そういえば、夕飯はカレーって言われてたな」
昼前に送られて来たメッセージを思い出す。夕飯が確定しているのであれば、昼にカレーを食べるのはやめておこう、と避けた記憶もあるのに。人間の記憶はあてにならない。
夕飯を作り終えた状態でスリープモードに入っているということは、急な不調によるものではなく、アップデートなどを理由にしたビジョンの意図的なものなのだろう。何より、ソファの上で目を閉じる彼は、棺にでも入るような綺麗な寝姿をしている。ミイラか?
いつもならばビジョンに促され、着替えた後はすぐに夕食に手を伸ばしているが、台所でなくソファの前に向かう。床の上にあぐらをかくと、そのままスリープモードのビジョンを眺める。しかし彼は目を覚ます様子もなく、まさしく死んだように眠りこけている。彼の胸元に注目すれば、上下する事は当然無い。
食事もセックスもするのに、呼吸をしない。
どれだけ彼が身近で、人間に近い存在でも、自分との大きな違いを改めて思い知らされる。
今ソファの上で無防備に横たわっているビジョンは、仮に首を絞められたとしても眉一つ動かさないのだろう。
そんな物騒な事をぼんやりと考えながら、なんとなく、ビジョンの胸元に耳を当てた。モーターが駆動するような無機質な音がかすかに届く。生き物じゃない機械の音。だけど不快という訳ではない。
実のところ、ビジョンがスリープモードになっている時は、俺が何をしようと彼には知る由も無いため、割と好きな時間だったりする。普段は俺の方も寝つくのが早かったり、朝早くに目が覚めてもこうしようとは思わない。普通に二度寝したい。
人々に好感しか抱かれないであろう整った顔立ちを、指で順になぞっていく。本当に、なんでこいつは俺と付き合っているんだろうか。その気になれば、引く手数多だろうに。
ビジョンが起きない事を確認すると、そんな疑問を抱きながら彼の唇に口付けた。
御伽話のお姫様のようにビジョンが目を覚ます、なんて事はない。こちらとしても、そもそも目覚めてほしくはない。ひと時の楽しみがビジョンにバレたら、なんで起きている時にやらないのだと、彼は文句を言うに違いない。

だから、もう少し今のままで。
「おやすみ、ビジョン」
彼の人工毛髪を、くしゃりと撫でた。

※参考にした壁打ち